1.はじめに
会社形態ではなく,個人事業主が事業を行っており,その事業主が死亡した場合,会社経営者の相続とは異なることがあります。
個人事業主は通常税務署に対し3月に所得税の確定申告をしていますが,相続人は相続が開始したことを知ってから4か月以内に準確定申告をする必要があります。
一番注意しなければならないことは個人事業主が事業を経営していくにあたり,多額の借金をしていたり,他人の連帯保証をしていることがないかということです。
とても返済できないような負債がある場合には家庭裁判所に相続放棄の手続をし,個人事業主の負債の支払いを免れなければなりません。
2.税務上の手続
個人事業主が死亡した場合には所得税法の定めにより,相続人が税務署に個人事業主が死亡してから1か月以内に廃業届を提出しなければなりません。
又消費税法上の課税事業者である場合には,同じく消費税法上の定めにより税務署に事業廃止届を提出しなければなりません。
3.個人事業主が死亡した場合の相続財産と相続
相続人は被相続人である個人事業主の積極財産は勿論ですが,借金や連帯保証債務等の一切の負の財産を相続することになります。
積極財産には,現金,預貯金,自家用車,自宅不動産など個人用資産もありますが,売掛金等の事業上の資産も含まれます。
負の財産としては事業を継続していくに際し金融機関から借りたローン,買掛金等があります。
負の財産が積極財産を上回る場合には相続人の事業を継続する意思がなくなり,相続放棄や限定承認がなされることになります。
相続放棄や限定承認をすれば個人事業主の負債の支払いを免れ,自己の財産でもって返済する必要はありません。
個人事業主の負債が少ない場合には,相続人の1人が事業の承継をし,被相続人が経営してきた事業をそのまま継続していくことになります。
この場合も,税務署に開業届を提出しなければなりません。
4.相続にあたり税法上の特典
個人事業主が死亡した場合,相続税を軽減する制度があります。
被相続人が事業を行っていた土地の場合や,被相続人と生計を一にしていた親族が事業を行っていた土地の場合には「特定事業用宅地等」に該当し,特例の適用を受け,最大80%の減額をすることができます。
又,被相続人が不動産賃貸事業のために貸付をしていた土地である場合や,被相続人と生計を一にしていた親族が不動産賃貸業のために貸付をしていた土地である場合には,「貸付事業用宅地等」に該当し,特例の適用を受け,最大50%の減額をすることができます。
さらに,青色申告事業者について,相続等によって取得した特例受贈事業用資産又は特例事業用資産に係る相続税や贈与税の納税を猶予される制度があります。
又そのあと事業を続けていることが想定される場合には,猶予されていた相続税,贈与税が免除されるという制度もあります。
この場合,小規模宅地等の特例を受けることはできません。
5.まとめ
個人事業主を被相続人とする相続の場合には相続財産の評価や分割方法をめぐって,相続人間で争いが発生し,相続人の1人が円滑に被相続人の事業を承継することができなくなることもあります。
設立50年を超える当事務所は,今まで数多くの相続問題を扱い解決してきました。
その中には個人事業主の相続の件も多くあり,話しあいや調停により相続紛争をねばり強く解決してきた自負があります。
個人事業主の事業の承継のことでお悩みの方は相続開始以前でも結構ですので当事務所にご相談いただけると幸いです。